国際的に貴重な湿地を守るラムサール条約に日本の九カ所が新たに登録される。3・11以降、私たちは地域と暮らしの見直しを強く迫られている。水辺の動植物との共生も、新しい目で見てみよう。
少し前まで湿地は身近な存在だった。田んぼやため池、サンゴ礁も湿地の仲間に入る。それらが急速に減っている。
国内では、この百年で六割が開発の轍(わだち)の下に消えたという。私たちの生活環境の一部が欠けていくということだ。
ラムサール条約は一九七一年、当初は水鳥の生息域を守るのを目的に、イランのラムサールという都市で制定された。締約国は約百六十カ国に上り、計百七十万平方キロが登録されている。登録した湿地を保護するだけにとどまらず、「賢い利用」を図ることになっているのが特徴だ。
国内からは、これまでに三十七カ所、約十三万ヘクタールが登録を済ませている。
登録候補九カ所のうち、北関東の渡良瀬遊水地は全国的に有名だ。愛知県豊田市の東海丘陵湧水湿地群は、一般にはあまり知られていない。計二十三ヘクタール。豊田市中心部から約四キロと、そう遠くない。地元の人たちが、草刈りなどの世話を地道に続けてきた。
シラタマホシクサやミカワシオガマの群生など、地方特有の希少な植物が生き残っている。秋には美しく咲き乱れる繊細な景観にも高い価値がある。
登録を観光資源発掘の好機ともとらえ、盛り上がりを見せているのが、富山県立山町、広さ五百七十四ヘクタールの弥陀ケ原・大日平である。もともと立山黒部アルペンルートの一画を占め、「立山・黒部」の世界遺産登録を目指す富山県は、国際的なアピールを期待している。
保全と利用を両立させるのは難しい。かといって、柵で囲うだけでは守れない。守るには人手やお金もかかる。湿地は地域の資産だが、多くの人に理解され、愛されてこそ、未来に残る遺産になる。
昨年の東日本大震災のあと、私たち日本人は、地球環境や持続可能な豊かさにより目を向けるようになってきた。
「賢い利用」という難しい課題がある。野鳥や植物の専門家だけでなく、より多くの住民が知恵を出し合い、その課題に挑むこと。自然と共生できる持続可能な地域づくりをそれぞれに考え続けていくことが、ラムサール登録の本当の意味ではないか。
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