日本、中国、韓国は首脳会談で三カ国の自由貿易協定(FTA)の交渉を年内に開始すると合意した。日本は米国との通商外交にも並行して取り組み、粘り強く有利なルールを築いていきたい。
日本の輸出相手は中国がトップで、韓国は米、欧州連合(EU)に次ぎ四位に位置する。FTAにより日本製品の市場は拡大するが、各国とも国内事情を抱え、ゴールまでの道は険しい。
韓国は三カ国の枠組みより、中国とのFTAを先行させたい考えで、近く交渉を開始する。日本とは家電、通信機器、自動車など競合分野があり、三カ国で関税障壁がなくなると日本製品の流入が増え、対日貿易赤字がさらに膨らむと警戒するからだ。
中国にも事情がある。日韓など経済先進国とのFTAでは、投資自由化や知的財産保護など高い水準のルールを迫られ、まだ体力が弱い国内産業が打撃を被る可能性がある。
日本は中韓FTAだけが先行する事態をけん制しつつ、中国に対しては国際的な貿易・投資ルールに従った協定締結を働き掛けることが必要だ。
日本には大きな懸案がある。環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加にまだ目途がつかない。
それでも、日本政府が昨年秋、TPP交渉に加わる意思を明確にしたことで、様子眺めだったカナダやメキシコが交渉への参加を決めた。中国は経済大国・日本が米国主導のTPPに接近するのを見て、日中韓の枠組みによるFTA交渉に腰を上げたとみてよい。
日本はいま米国と中国という二つの巨大市場を相手にする経済協定交渉と向き合っている。これを大きなチャンスにしたい。経済活性化とアジアにおける存在感を高めるきっかけにすべきだ。
自由貿易による国内産業への影響はどの国も抱える問題だが、日本は米国、EUとのFTAを発効させた韓国の先例を詳しく分析する必要があろう。
米国はアジアの成長を見込んで輸出拡大を図り、中国には日本や韓国の技術を取り入れてハイテク企業を育てたいという戦略がある。
野田佳彦首相は米紙ウォールストリート・ジャーナルとの会見で、TPPと日中韓FTA双方に加盟して「日本が総合調整できる役割を将来果たしていけるのではないか」と述べた。日本にはその潜在能力はあるが、米中双方と渡り合える外交力が前提となる。
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