『アポロ13』は、月面着陸を目指しながら、打ち上げ後、事故に見舞われたアポロ13号の実話に基づく米映画の佳作である▼乗組員と地上の基地が一体となって絶望的状況を乗り越え、奇跡の生還を果たすドラマだが、特に印象に残っているのは、乗組員の命を守るため、二酸化炭素処理に使う器具の自作法を地上スタッフが考え出す場面▼乗組員の退避した着陸船内にあるのは確か、段ボールやビニール袋、粘着テープのような物だけ。地上スタッフは苦心惨憺(さんたん)、どうにかこうにか、それだけで必要な器具をこしらえ、作り方を13号に伝えるのだ▼ない、足りないと嘆くのでなく、ある物だけで何とか対処する−。そんなたくましい知恵は、稼働原発ゼロで電力の不足がいわれる現下の日本にも求められるものだろう。ふと、思い出すのは以前、どこかで聞いたロマの女性歌手の言葉。「満腹では歌は歌えない」▼むしろ「ない」「足りない」というハングリーな状況は、新たな知恵や発想を生む土壌たり得る。大体、この国が資源大国だったことは一度もない。しかも戦争で社会インフラは壊滅。そんな究極の「ない」「足りない」から紡ぎ出された創意こそが日本の屋台骨をつくったことに思いは及ぶ▼されば、特に省エネ技術などに期待してもよかろう。日本号の「乗組員」を救うたくましき知恵よ、今こそ出(いで)よ、と。