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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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今年は歌人斎藤茂吉の生誕130年にあたり、きょうが誕生の日になる。茂吉をよく知らなくても、教科書にも載るこの一首は多くがご存じだろう。〈のど赤き玄鳥(つばくらめ)ふたつ屋梁(はり)にゐて足乳根(たらちね)の母は死にたまふなり〉。その名を一躍高めた絶唱である▼郷里の山形で生母は5月に死去した。早苗のそよぐ田をツバメが飛び交うころだ。昔は当たり前のように家々に巣をかけていた。しかし今、天上の歌人は心配かもしれない。都会ばかりでなく田園でも、スマートな燕尾服(えんびふく)姿が減っているらしい▼最近ツバメを見ましたか――と日本野鳥の会が呼びかけている。全国から情報を募って実態を調べるのだという。農地の衰退や巣作りに適した家屋が減るなど、近年の受難は想像がつく。だが詳しいことはわかっていない▼ともに小さくて身近で、まとめて「燕雀(えんじゃく)」と呼ばれるスズメも減っている。こちらは「この20年で6割減」という推計があって深刻だ。この国の津々浦々で、ありふれた生き物が、ありふれて在る環境が損なわれている▼野鳥の会は、原発事故による放射性物質の影響も懸念する。子育て中のツバメはせわしない。1時間に何十回もエサの虫を運ぶと聞く。無心な親鳥と、「のど赤き」新しい命を思えば、罪の意識がチクリと痛い▼ツバメが巣をかける家は繁盛する、と俗説に言う。ツバメの巣くわぬ年は火災あり、とも言う。日本列島という大屋根に、末永く飛来してくれようか。今年まだ見ていないのが、気にかかる。