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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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母と子をうたった詩歌や物語は多いけれど、機微にふれてほろりとさせ、思い出させて郷愁を誘うのは、庶民派の川柳だろうか。〈添乳(そえぢ)したまゝだと気附(きづ)く明(あけ)の鐘〉麻生葭乃(よしの)。赤子に添い寝して、乳を飲ませながら眠ってしまった母の図である▼下の子が生まれて母さんを独り占めすると、まだ幼い兄や姉は少し寂しくなる。〈上の子は足だけ母にふれて寝る〉丸山弓削平(ゆげへい)。そっと伸ばした足に母の足。この場面、「父」では代用がきくまい▼そんな、もろもろへの感謝や追慕を届ける母の日である。ここ数日、花屋さんの軒先は道までカーネーションがあふれている。百花の咲き満ちる初夏(はつなつ)だが、きょうの日の、この花の役どころはゆるぎない▼昨年秋の声欄(名古屋本社版)に、70代の女性が寄せていた。小1だった娘さんが「おこづかいをつかってしまい、カーネーション1本しかかえなくてごめんなさい」とたどたどしい字で書いた手紙を宝物にしているそうだ。一輪のあたたかさが、胸の中に宿り続けたことだろう▼母の日の起源は100年余り前、米国のある女性が亡き母を偲(しの)んだ追悼会とされる。亡母の好んだ白いカーネーションを捧げ、参加者にも手渡したという。共感を呼んで全米に広がり、日本でも戦後、花の名とともに定着した▼人はいくつになっても親の子ども。歌壇の重鎮だった窪田空穂に一首ある。〈八十五の翁となれど母おもへばただになつかし今日は母の日〉。思い出の国にも、感謝は届くはずである。