医薬品のインターネットなどによる販売規制の無効を求めた訴訟で、東京高裁が規制は行き過ぎと判断した。国は判決を不服として上告したが、通信販売の利便性と安全性は両立できるはずだ。
二〇〇九年の改正薬事法施行で、家庭用のかぜ薬やせき止め、胃腸薬などはネットや電話による通信販売ができなくなった。
副作用のリスクが低い一部の医薬品をのぞき、薬剤師などによる使用法などの説明を対面で行う販売が義務づけられたからだ。
法改正の狙いは医療費の削減である。厚生労働省は軽い病なら医療機関に行かず自分で治すことを推進し、医療用薬を処方箋の不要な一般用として販売を認めてきた。同時に対面でないと副作用の防止など必要な情報提供ができないと考え通販を原則禁止した。
困ったのは離島など近くに薬局がない人や、これまで通販で購入していた人たちである。厚労省は一部の医薬品に限り従来の通販を認めたが、来年五月までの経過措置だ。自分で治すには医薬品購入の利便性が求められるが、現状は必ずしもそうなっていない。
訴訟は、医薬品のネット通販二社が「ネットでも安全に販売できる」として厚労省を相手に規制の無効を求めた。一〇年の東京地裁判決は「副作用防止には規制は必要」と訴えを退けた。
四月の控訴審判決で東京高裁は、国はネット販売が原因の副作用被害の調査が不十分なのに、国民の権利を制限することは違法で無効と判断、販売権を認めた。
ネット販売は購入者の購入履歴などが記録しやすい。医薬品の情報を書面で正確に提供できるなどのメリットもある。厚労省の調査でもネット販売による健康被害は報告されなかった。
一方、対面販売では購入者が服用する本人でない場合もある。販売する薬剤師が十分に医薬品の説明をしないケースもある。
医薬品は副作用があるだけに安易な販売は許されないが、通販の利便性も大切だ。
店舗を持つ業者に限ったり、薬剤師が応対したり、購入者の確認の厳格化や購入制限など通販で安全に売る手だてはあるはずだ。
昨年七月、政府は安全確保策を設けることを前提にネット販売規制の見直しを閣議決定した。
見直しを行わず、訴訟が続けば、購入者が不便を強いられる。厚労省、薬剤師会、販売業界はその方策に知恵を絞るべきだ。
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