民主党が小沢一郎元代表の党員資格停止処分を解除した。政治資金規正法違反事件での一審無罪判決を受けた措置だ。「親小沢」対「反小沢」の内紛を克服し、政策実現に力を注ぐ契機としてほしい。
小沢氏が検察審査会の二度の議決により強制起訴されたのは昨年一月。翌二月に党常任幹事会が「判決確定までの間」の党員資格停止処分を決定した。
しかし、一審判決では検審が判断材料の中核とした捜査報告書が虚偽だったことが厳しく指弾されている。
判決確定までは推定無罪だとはいえ、検察の「誤導」による検審の判断により、有権者が選んだ国会議員の政治活動が一年以上にわたって事実上制限されたのを問題なしとは言い切れない。
見過ごせないのは、この間、野田佳彦首相が消費税率引き上げを柱とする社会保障と税の一体改革案を閣議決定し、その成立に政治生命を懸けると断言したことだ。
消費税増税に反対する有力議員の手足を縛り、その間に増税の流れをつくるようなやり方は、とても公正とは言えない。
輿石東党幹事長は判決確定前に処分解除を決める意味を「できるだけ早くこの問題に結論を出すことが大事な政治判断だと思った」と説明した。「親小沢」と「反小沢」勢力が激しく対立する党内の融和を図りたかったのだろう。
ただ、有権者の関心が党内融和ではなく、国民が政権を託した二〇〇九年衆院選で民主党が約束したマニフェストの実現にあることを忘れてもらっては困る。
党が混乱しようがしまいが、政府や行政の徹底した無駄の削減や官僚主導から政治主導への転換などの約束を実現していれば、これほど民主党や内閣の支持率が下がることはなかった。
小沢氏は処分解除を受け、消費税増税に突っ走る野田首相らへの批判を強め、党内対立が激化する見通しだ。政策論争は大いに歓迎したいが、小沢氏との親疎に起因する不毛な内輪もめはもう終わりにしてほしい。
首相らには、小沢氏の言動を単なる権力闘争とはせず、政権交代の原点を想起させる忠告と受け止める謙虚さが必要だ。
民主党が政権を全うできる衆院議員の任期満了までまだ一年以上ある。残された期間に小沢氏をめぐる内紛を克服し、国民が期待した政策を一つでも多く実現できれば、民主党への評価は多少なりとも好転するに違いない。
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