新たな時代の到来を高らかにうたい上げるような、明るく雄大な曲調が心地よい。新憲法が施行された一九四七年五月三日、記念祝賀会で演奏された「祝典交響曲」だ▼東京音楽学校(現・東京芸術大)教授だった橋本国彦が作曲した交響曲第二番。歴史に埋もれていた「幻の交響曲」は昨年秋、湯浅卓雄さんの指揮、芸大フィルハーモニアの演奏でCD化され、六十四年ぶりによみがえった▼あの戦争で、日本人だけで三百万人を超える死者を出した。焦土の中から立ち上った希望の象徴が憲法だった。戦勝国の押し付けだとしても、圧倒的多数の国民は、戦争放棄と戦力の不保持を支持した▼食べることに必死だった民衆に根差していたのは、もう殺されることはない、という安心感だったのだと思う。祝典交響曲には、解放的な時代の空気が感じ取れる▼施行から六十五年を迎えた憲法記念日のきのう、各地で憲法を考える集会があった。敗戦直後とは比較できないほど豊かになったのに、震災後は「第二の敗戦」ともいえるよどんだ空気が覆う▼今の憲法では非常事態に対応できない、という根拠の乏しい「震災便乗型」の改憲論が出てきた。自民党が発表した改憲草案は人権を制約し、国民に義務を課す内容が目立つ。憲法は、国民が国家権力を縛る道具であるという立憲主義の基本を学んでから出直すべきだろう。