日米両首脳がワシントンで会談し、六年ぶりに共同声明を発表した。日米両国が取り組むべき課題を列挙したものだが、米国のアジア戦略を反映して軍事面が突出する形になったことを危惧する。
野田佳彦首相による今回の訪米は、民主党首相として初の公式訪問だ。日米両首脳による包括的な共同声明の発表は小泉純一郎首相当時の二〇〇六年以来となる。
小泉政権当時、日米両政府の当局者が史上最良と誇っていた日米同盟関係も〇九年、両国での政権交代を経て、すっかり冷え込んでしまった。
日米安全保障条約の発効六十年を経ても、日米の同盟関係は首脳同士のケミストリー(相性)に支えられている部分が大きいという「同盟の脆弱(ぜいじゃく)性」のためだ。
国と国との関係は、首相が「美しい花を咲かせるには日々の土づくりや水やりが欠かせない」と庭造りに例えたように、首脳同士はもちろん、官民の幅広い分野での協力関係の構築が欠かせない。
ところが小泉政権以降、イラク戦争など米国の軍事戦略に引きずられることが多くなった。今回の共同声明も中国の著しい台頭でアジアに回帰した米国の軍事戦略を色濃く反映している。
声明は「両国の安全保障、防衛協力のさらなる強化を目指す」と明記した。自衛隊と米軍がグアムや米自治領北マリアナ諸島のテニアン島で共同訓練をしたり、警戒監視、偵察活動を共同で行う「動的防衛協力」が念頭にある。
背景にあるのは、北朝鮮の軍事的な挑発行動や、中国の海洋進出に対応する米国の軍事戦略だ。
この地域での抑止力や緊急事態発生時の対応力として、日米間で日ごろから共同対処能力を高めておくことは必要なのだろう。
しかし、こうした共同行動がアジア・太平洋地域の軍事的緊張を逆に高めたり、自衛隊の活動が日本政府の憲法解釈で違憲とされる集団的自衛権の行使につながらないよう、留意も必要だ。
特に、テニアン島では共同訓練のために米軍基地に自衛隊を駐留させ、離島が占領された場合を想定して奪還訓練などを行い、その訓練施設を整備するために日本政府からの財政支出を検討するという。
海外に長期間駐留しての訓練が自衛隊の海外派兵に当たらないのか、外国の軍事施設への日本の財政支出が妥当なのか。国会での議論抜きで進められることがあってはならない。
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