少し前に関東や東海地方を通り過ぎた桜前線が、ようやく東北に到達したと思ったら、沖縄や奄美地方は早々と梅雨入り宣言である。南北に長い日本の四季の豊かさを実感させる▼黄金週間の前半、福島県三春町の「滝桜」を訪ねてきた。「淡墨桜」(岐阜県本巣市)、「神代桜」(山梨県北杜市)と並ぶ日本三大桜の一つである。樹齢千年超とされるベニシダレザクラの巨木は満開だった。四方に広げた枝から滝のように花がこぼれていた▼国の天然記念物の滝桜の樹高は十三メートルで幹回りは八メートルほど。枝は二十メートル以上張り出している。平安の昔から根を張るこの桜は、花を咲かせては散らす自然の営みを実に千回以上、繰り返してきた▼風雪に耐えてきた老木と重なって見えるのは、きのう中日の球団新記録となる二百十二勝目を挙げた山本昌投手だ。杉下茂さんの記録をついに追い越した。大きく振りかぶって、右打者の内角に食い込む直球は威力十分で年齢を感じさせない▼今季は五試合投げてわずか二失点。防御率も一位である。本当に今年四十七歳になる投手なのか、と疑ってしまう。球団新記録もまるで通過点かのようだ▼「中年の星」がいまだ果たしていない日本シリーズでの勝ち投手を目標に投げ続けてほしい。年輪を重ねるほど、大木のような風格が出てきた威風堂々の大投手は、五十歳現役も夢ではない。