楽しいはずの連休が瞬時に暗転した。群馬県の関越自動車道であった高速バスの事故。四十六人の死傷者が出て、警察は強制捜査に着手した。コスト削減にかまけて安全を蔑(ないがし)ろにしていなかったか。
ショッキングな光景だった。道路脇の防音壁が大型観光バスを真っ二つに切り裂いていた。
ブレーキ痕はなく、運転席の速度計は時速九十二キロを指していたという。衝撃のすさまじさは想像を絶する。高速道路での単独事故としては史上最悪の惨事となった。
河野化山運転手(43)は「居眠りした」と警察に話しているという。人命を預かる重要な仕事だと自覚していたのか。遺族たちの怒りはいかばかりだろう。
けれども、運転手として適格だったかどうかに問題を矮小(わいしょう)化してはなるまい。バス会社の労務管理や旅行会社の安全確保の在り方も徹底的に調べるべきだ。
高速を夜通し走るツアーバスの人気は高い。インターネットで簡単に予約でき、料金がすこぶる安い。旅先によっては飛行機や電車に比べて手軽で便利だ。
二〇〇〇年に貸し切りバス事業の規制が緩められ、バス会社が急増した。それに伴い価格競争は熾烈(しれつ)を極めるようになった。交代要員を配置しなかったり、休憩を短くしたりと薄利多売のしわ寄せが運転手を直撃しているという。
ツアーバスの事故は後を絶たない。〇七年には大阪府吹田市でスキーのツアーバスがモノレールの橋脚にぶつかり、二十七人が死傷した。今度の事故と同じように運転手の居眠りが原因とされた。
総務省の一〇年の調査だと、運転中に睡魔に襲われたり、居眠りをしたりした経験があると答えた運転手は九割近くに上った。
立場の強い旅行会社の圧力に押されて運賃を切り下げたり、分刻みの無理な行程を組んだりと、バス会社の安全無視ぶりは常態化しているといわれる。不測の事態に見舞われた場合の責任の所在も分かりにくい。
安全対策を置き去りにしたままでの市場の自由化は無謀だった。手だてを検討してきた国土交通省は四月に入り、旅行会社やバス会社のチェックの強化へとかじを切ったばかりだ。いかにも腰が重い。改善を急ぐべきだ。
「格安」の裏に落とし穴が潜んでいるかもしれない。利用者は賢くありたい。安全第一の会社かどうか努めて確かめる。そんな一手間が命綱にもなるだろう。
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