日銀が追加の金融緩和に踏み切った。だが、相変わらずの小出し策にとどまり、効果は期待できない。本気でデフレ脱却を目指すには、インフレ目標の引き上げと目標達成期限の明示が不可欠だ。
日銀は国債など資産を買い入れる基金枠を現在の六十五兆円から五兆円程度増やす。国債の買い入れ枠を十兆円増額する一方、既存の金融機関向け融資枠を五兆円減らし、差し引きでは五兆円の増額になる。
ただし、これはあくまで「枠」にすぎない。実際に買い入れが完了し、約束したマネーが市場に供給されるのは二〇一三年六月だ。
増額規模が小幅で事前予想の範囲内にとどまったため、金融市場は株安円高で冷ややかに反応した。二月に事実上のインフレ目標を導入した際には、意外感もあって大幅な株高円安で好感したのと対照的だ。日銀に対する市場の期待感は急速に後退している。
同時に発表した「経済・物価情勢の展望」では、二〇一三年度の実質国内総生産(GDP)伸び率を政策委員見通しの中央値で前年度比プラス1・7%成長と見込んだ。消費者物価指数は同じくプラス0・7%の上昇だ。
一一年度のマイナス成長、物価下落からは反転するものの、デフレ脱却には遠い。展望は「1%に遠からず達する可能性が高い」と楽観的だが、欧州危機の再燃もささやかれる中、甘い見通しは消費税引き上げ論議にも微妙な影響を与えるだろう。
本来なら、消費者物価上昇率で1%のインフレ目標を2%にまで引き上げ、かつ達成時期についても明示する必要がある。指数が高めに出る統計上の誤差を考えれば、1%では実質的に0%程度にしかならない。
世界的に見ても、米国の連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ2%程度が標準になっている。
日銀の消極姿勢をみて、永田町ではインフレ目標の設定を日銀に任せず、政府が単独で、あるいは日銀と政府の協議で決めるべきだとの議論も有力になってきた。
日銀に対する民主的統制を強める観点から、総裁解任条項も含めた日銀法改正案も野党から今国会に提出されている。日銀はどう答えるのか。
今回の追加緩和を含めて、ここ数年の日銀は永田町が圧力を強めると緩和を小出しにする姿勢で一貫している。それでは日銀自ら「政策手段の独立性」を危うくすると認識すべきだ。
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