神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)という名の酒が、『御伽草子』の「酒呑(しゅてん)童子」の話に出てくる。人が飲めば薬だが、鬼が飲めば毒という不思議な酒だ▼同じものが「薬」にも「毒」にもなるという点では現世の酒も同じだし、人の役には立つが、場合によって、逆に災いにもなり得るものは酒以外にもたくさんある。例えば刃物。料理などには欠かせぬが、凶器にもなる▼先週、通学の児童らの列に車が突っ込む事故が各地で相次いだ。二十三日に起きた京都府亀岡市の事故では十人が死傷。ランドセルや靴などが散乱した現場写真からは、魔の瞬間、子らのあげた恐怖の叫び声が聞こえる気がして、胸が詰まった▼四日後には千葉県館山市や愛知県岡崎市でも同様事故が。千葉の事故では小一の男の子が亡くなった。何の落ち度もないのに突然、不条理に奪われたいくつもの命。親御さんらの目には、無謀運転で取り返しのつかない結果を招いた運転者らが「鬼」に見えただろう▼ハンドルを握りながら「居眠りしていた」「ボーッとしていた」などと聞けば余計に。車も「人」が運転すれば利器、「鬼」が運転すれば凶器だ。恐ろしいものを操っているという緊張や恐怖心が薄れれば、「人」も「鬼」に近づく▼GW中の昨日も、多数の死傷者が出るバス事故など、車の事故が続発した。とにかく、運転することには、いつも臆病でありたい。