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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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ソメイヨシノは日露戦争の祝勝として植樹され、広まっていったという。それまでは「全国区」というほどでもなかったらしい。植物学者の牧野富太郎は郷里の高知にまだソメイヨシノがないころ、苗木数十本を送って植えたそうだ▼大の桜好きだったのを、東京西郊にある旧宅跡の記念庭園を訪ねて知った。小学校を中退し、独学でたたき上げた大学者は、この24日が生誕150年だった▼桜のエドヒガンや、キンモクセイなど多くの名付け親である。集めた植物標本は40万点、新種の命名は1500を数える。「植物学の父」と呼ばれるゆえんだ。権威主義的な大学とのあつれきの中、ひたすら学究に打ち込んだ純な生涯を今も慕う人が多い▼とにかく植物が好きだった。「植物の世界は私にとって天国であり極楽でもある」――そうした言葉が自叙伝の各所にある。くくりは短歌風に「何よりも貴き宝持つ身には、富も誉れも願わざりけり」。幸せな人生と言わずして何と言おう▼これも高知育ちの物理学者寺田寅彦が言っている。「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」と。牧野は様々な打ち明け話を、花や草からささやかれたに違いない▼この春、桜前線は真っ先に高知を出発した。以来一月(ひとつき)余、淡い桜色を追いかけて、若葉の緑が野山を北へ染め上げていく。「花在れバこそ吾(わ)れも在り」。碑に刻まれた碩学(せきがく)の言葉が胸に広がる、百花のときである。