伸び盛りのタケノコは、一日で約百二十センチも伸びることもあるらしい。地下茎から多量の栄養分を供給するため、木々の新緑が鮮やかな今の季節に、竹の葉は黄ばんでくる▼他の草木が枯れた様子に似ているので「竹の秋」。春の季語である。<夕方や吹くともなしに竹の秋>永井荷風。親の分まで栄養が行き渡ったタケノコはみずみずしく、採れたては生でも食べられると聞く▼タケノコ狩りでしか味わえない味覚を諦めなくてはならない地域も出ている。千葉県や茨城県で国の新しい基準値を超える放射性セシウムが検出され、出荷停止が相次いでいる▼売れなくても掘らないと竹林は荒れる。捨てるために抜くしかない。経済的な打撃は大きく、来年も出荷停止が続けば廃業するしかないと考えている農家もあるという▼今、大手スーパーなどで国の基準値より厳しい数値を設ける動きが広がっている。消費者と向き合う企業として合理的な判断と思うが、農林水産省は「新基準値を形骸化させる」として待ったをかけた。「基準値は世界的にも厳しい数値」という主張だ▼生産者を守ることは国の仕事ではあるが、自由な企業活動に過剰に介入するのは筋が違う。放射性物質の数値を細かく測定し、すべてを公表して消費者の判断に委ねる。その姿勢は結果として、消費者と生産者を守ることにつながってゆくと思う。