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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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このまま坂を転げ落ちるとは思わないが、峠を越えた寂しさはある。昨年10月1日現在の人口は1億2780万人、1年で約26万人減った。統計が整うここ60年間では、最大の減り幅だという▼少子化に加え、津波にのまれた命、帰国した外国人など、震災の爪あとが数で刻まれた。減少率の上位は、福島の1.9%を最高に、岩手、秋田、宮城と東北が占める。被災3県では、悲しい「自然減」に、まとまった転出が続いた▼警戒区域の福島県富岡町で、2千本の桜並木が満開になったと聞いた。名高い桜色のトンネルに、人影はない。原発の事故でわが家を追われた人々は、避難先のテレビで懐かしい景色を確認し、目を潤ませるばかりだ▼なお残る涙のあとを優しい色に染めて、桜前線がみちのく路を駆け上がる。きっちりと巡り来る四季に、人事にお構いなしの冷厳を思うのは筆者だけではなかろう。国破れて山河あり。その感慨を胸の奥にしまい込んだ。今こそ前を向く時だから▼きょうは、春雨が百穀を潤す、という穀雨(こくう)にあたる。草木は甘雨に煙り、稲作農家は苗づくりや田おこしに励む。この時節のお湿りは「万物生(ばんぶつしょう)」の異名の通り、生きとし生けるものに精気を満たしてくれる▼週末を挟んで、天気は総じて下り坂らしい。東日本では、花散らしの降りになるかもしれない。咲かせて、散らせて、春の色は北国へとにじむ。あまりに多くの人が欠けた、この列島をなでるように。恵みの雨に打たれて、また歩き出そう。