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朝日新聞社説をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の社説。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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東京電力の国有化にともなう新しい会長に、原子力損害賠償支援機構の運営委員長で弁護士の下河辺和彦氏(64)が就く。民間経営者からの起用が難航した末の人事だ。ただ、いまの東[記事全文]
30年以内に来る確率が高いといわれる首都直下型地震。その被害の想定を、東京都が6年ぶりに見直した。最悪の場合、都内だけで死者9700人、建物被害30万棟。地震そのものに[記事全文]
東京電力の国有化にともなう新しい会長に、原子力損害賠償支援機構の運営委員長で弁護士の下河辺和彦氏(64)が就く。
民間経営者からの起用が難航した末の人事だ。ただ、いまの東電の状況を考えれば、破産法制や企業再生の専門家である下河辺氏の就任はむしろ望ましい面がある。
福島第一原発事故の賠償、除染、廃炉処理がのしかかり、東電は実質的に債務超過にある。本来なら破綻(はたん)処理に踏み切ったうえで再建を目指すところだ。
だが、政府は財政支出を避けようと、賠償に必要な資金は出しつつ、長期にわたって東電に返済させる仕組みにこだわってきた。東電の経営に直結する原子力政策の見直しや電力改革も作業の途上にあり、明確な方向性が打ち出せていない。
これでは、企業経営の経験者が手腕を発揮したくとも、手足を縛られる。人材を出せなかった経済界も情けないが、人事の難航は政府が自らまいた種ともいえる。
東電を生かさず殺さずの形にして、賠償費用の捻出を取り繕う今の枠組みは早晩、壁に突き当たる。国民負担が避けられないことを踏まえて、東電の株主や取引金融機関の責任を問う抜本的な処理を急ぐべきだ。
下河辺氏は自らの知識や経験を生かし、広い視野でこれに応じてほしい。新会長にとって、守るべきは東電そのものではなく、電力の供給である。
そのためにも、電力消費の抑制を採り入れた新しい事業形態を築いていく必要がある。大胆なリストラや職員の意識改革は不可欠だ。
下河辺氏は、東電の財務調査などを通じて、非効率な資材調達の実態や料金制度の不備といった電力産業の問題点をあぶり出してきた。
電力改革を進める枝野経済産業相らと考え方が近いのも利点だ。新たな電力体制に向けた「つなぎ役」としての大任を果たしてほしい。
下河辺氏がまず求められるのは、賠償に誠実かつ迅速に応じていくことだ。
野田政権の責任は重い。事故の被害者のみならず、値上げを求められた企業や消費者は、東電のこれまでの姿勢に不満や不信を募らせている。下河辺氏だけを矢面に立たせるようなことになれば、だれも「次」を引き受けようとはしないだろう。
政府は賠償をきちんと支援する。事故の反省に基づいた原発政策と電力改革を進める。それがあいまって初めて東電は生まれ変われる。
30年以内に来る確率が高いといわれる首都直下型地震。その被害の想定を、東京都が6年ぶりに見直した。
最悪の場合、都内だけで死者9700人、建物被害30万棟。地震そのものに加え、火災が怖い。死者の4割強、建物被害の6割強を占めると予測する。
東京の弱点は、木造の家屋がひしめく「木造住宅密集地(木密〈もくみつ〉)」が広がっていることだ。23区西部や南西部、東部の下町を中心に1万6千ヘクタール。山手線の内側2個分もの土地に、150万世帯が暮らす。
木密を火に強い街につくりかえる。いつ地震が来てもいいように地域の防災力を高める。二つの対策を、同時に進めなければならない。
街のつくりかえは、道路の幅を広げて延焼を防ぐ帯をつくること、そして古い木造の家を燃えにくい素材で建てかえることが柱だ。
ところが、木密の街は高齢化が著しい。家が狭いから、若い人は街を出る。残されたお年寄りは費用や時間を考え、建てかえや引っ越しをためらう。
地震が来たらあきらめる、という人もいる。だが、燃え広がれば他人を巻き込んでしまう。放ってはおけない。
都は木密対策として不燃化特区をつくることを決めた。建てかえを手厚く支援する一方、住民の土地や家を買い取って立ち退かせる「強制収用」の活用を区に求める。そうしないと対策は進まない、という。
時間との闘いだ。やむをえない面がある。ただ、収用はあくまで最後の手段で、やたらと使えるものではない。しかも、こんなに広い木密だ。結局は粘り強い説得が要る。
大切なのは、街のつくりかえだけに頼らず、地震が来ても大きな被害を出さない手立てだ。
震災の際は、消防車の数を上回る数の火事が起きる街が出てくる。それが大火につながる。
消防車は来ないと考え、小さな火は住民の手で消せる態勢を整えておくべきだ。都市防災に詳しい東京理科大の関沢愛教授は、そう指摘する。
人力で動かせて路地にも入れる「可搬式ポンプ」や、消火栓とホースをつなぐ「スタンドパイプ」を、町会ごとに備える。訓練を繰り返し、いつでも使えるようにする。そんな地道な備えを、地域で重ねよう。
木密の近所づきあいの濃さは防災に役立つ。街のつくりかえも、人のまとまりを壊さぬように進めたい。ご近所の数軒がまとまって、鉄筋の共同住宅に建てかえる。そんな手もある。