昔の寄席の灯(あか)りはすべてロウソクだった。トリで出演する噺(はなし)家は、最後の客が帰った後に高座の上にあるロウソクの芯を扇子で打って消したそうだ。芯を打つ、から転じて、トリを務める噺家は「真打ち」と呼ばれるようになったという▼先輩二十一人を飛び越して真打ちになった春風亭一之輔さんのお披露目の公演が、東京の寄席で続いている。口上の席で、落語協会の最高顧問の三遊亭円歌さんが、真打ちという言葉の由来を教えてくれた▼正統派の古典落語の語り口ながら、現代的なシニカルな視点がのぞく。そんなところが一之輔さんの魅力だろう。子どもが登場する滑稽噺は抜群に面白い。厳しい柳家小三治会長が、自らの目で確かめた上で抜てきを決めた逸材である▼入門からまだ十一年。三十四歳の若さである。小三治会長は口上の席で、期待を隠さなかった。「上の者も下の者も、この男に引っ張られていくと思います」▼真打ちになると「師匠」と呼ばれるが、落語界は真打ちが一番多く、二つ目、前座と下に行くに従って少なくなる逆ピラミッド構造。これから本当の勝負が始まる▼古今亭志ん朝さんが亡くなって十年余。昨年には立川談志さんも旅立ったが、個性あふれる後継者はたくさんいる。古い芸能の継承だけではなく、新しいエンターテインメントの担い手として、新真打ちの飛躍を期待する。