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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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涙というものは、流した人を強くも優しくもする。科学技術もまた、あまたの悲劇に鍛えられ、熟してきた。海の安全を考え直させたのは、100年前に大西洋で沈んだタイタニック号だ▼長さ270メートルの豪華客船は「不沈」とうたわれた。船底は二重、下部は16の区画に分割され、設計上は2区画に浸水しても沈まない。だが、すれ違いざまに水平に切られるような事故は想定外だった▼氷山に遭遇した巨船は左に舵(かじ)を切るが、はるかに大きい水面下の氷で右舷を90メートルにわたり損傷し、自慢の防水隔壁は4割が破られた。ただ上部客室での異音や衝撃は限られ、デッキで様子をうかがってカード遊びに戻るグループもあった▼2時間40分後、洋上のホテルは船首から氷海に没する。約2200人の乗客乗員に対し、「使うはずのない」救命ボートの収容力は半分、生存者は約700人だった。満天の星の下、無風の海は鏡の静けさながら、水温は0度を割っていたという▼いくつもの別れがあった。脱出時に優先された女性は、1等船室ではほぼ全員が助かったのに、3等では半数が逃げ遅れた。全員分のボートを備え、避難誘導は船室で差をつけないなど、惨事を教訓に海の常識となったルールは多い▼さて1世紀の後、福島の事故はどう語られていよう。原発を鍛え直した試練、それとも人類が原子力をあきらめる端緒か。いずれにせよ、ただの不運に終わらせてはならない。3800メートルの海底に眠る、タイタニックの伝言である。