HTTP/1.1 200 OK Date: Mon, 16 Apr 2012 02:21:09 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 「逆さ富士」日本の課題:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 「逆さ富士」日本の課題

 新年度、新学期が始まっても元気や明るさに乏しい日本。東日本大震災と原発事故の影響もありますが、社会構造の変化も見落とせません。

 阪神大震災やオウム真理教事件などがあった一九九五年、堺屋太一氏の「俯(うつむ)き加減の男の肖像」という小説が話題になりました。忠臣蔵の討ち入りに加わらなかった元浅野家家臣、石野七郎次は名を変えて商人として生きる決意をしますが、元禄時代という大きな峠を越えた下り坂の社会環境が男の夢に暗い影を落としていくというストーリーです。

◆下山の時代を生きる

 今年は五木寛之氏の「下山の思想」という本がベストセラーになっています。東日本大震災と福島原発事故を「第二の敗戦」ととらえ「実りのある下山の時代を見事に終えてこそ新しい登山へのチャレンジもある」との指摘です。

 元気のない時代に「俯く」とか「下る」という言葉がはやるのは理解できますが、そうした雰囲気を招いた社会構造の劇的変化を直視することも大切です。

 五五年体制(自民党一党支配)下では人口構成、雇用慣行、賃金構造などが富士山型でした。だが加速する少子高齢化で、今後の日本は湖面に映る逆さ富士型です。社会保障ではお年寄りを多数で「胴上げ」した時代から三人で一人を持ち上げる「騎馬戦」に。やがては一人で一人をかつぐ「肩車」になります。

 しかも高度経済成長期なら問題を国内的視点で処理することも可能でした。しかしグローバル化、世界標準の中で生きていかなければならない今、激変や危機への対応も日本人が納得するだけでなく、国際的視野での普遍的な妥当性が求められています。

 東京都町田市に住むアメリカ人の男性が東日本大震災に遭遇し、神奈川県座間市から自宅まで徒歩で帰った話をしてくれました。

◆「小選挙区」型社会

 町田への道順が分からず交番を見つけては道を尋ねたが、どの交番でもお巡りさんが、英語は分からないと首を横に振るだけ。結局、通行人に片っ端からあたり五時間かけて帰宅したそうですが、「英会話ができる巡査を増やしてください」と陳情されました。

 そういえば先月、都内で開かれた「東日本大震災とメディアの役割」と題するシンポジウムでも外国人記者たちが「日本政府の発表は二日後にならないと英文訳が出なかった」と嘆いていました。

 言葉だけではありません。スーパーコンピューターに関する事業仕分けで「なぜ二位じゃ駄目なんでしょうか」と迫る蓮舫参院議員の姿を記憶している読者も多いと思いますが、産業界では一位でないと生き残れないとの空気が強いのです。市場第一主義を奨励するわけではありません。ただエルピーダメモリの破綻に象徴されるように、かつては「日の丸半導体」といわれた世界のトップ企業があっという間に斜陽化する事実を無視できないということです。

 東大が「秋入学」を目指すのも大学の国際化に生き残るための戦略です。限りなく一位に近づかないと国際競争にも勝てない。当選するには51%の得票が必要な小選挙区制に似て、圧倒的な強さを保持しないと埋没してしまう「小選挙区」型の社会が日本の随所で見られるようになったのです。

 問題はここからです。野田佳彦首相は就任以来、「いまの日本に一番必要なのは中間層の厚みを増すことだ」と強調します。確かに五五年体制期の繁栄は「総中流」に支えられていました。それは突出した一人が勝つ世界ではなくて隣にも勝つ人がいる「中選挙区」型の社会でした。バックギアのない車のように野田首相は消費税率引き上げに直進していますが、一番打撃を受けるのは中小企業や所得の低い人々です。セーフティーネットを相当強化しないと、首相がいう「厚みのある中間層」は実現不可能です。それどころか逆に貧富の差がさらに拡大する事態を招きます。

 「不本意非正規就業者」という用語をご存じでしょうか。非正規雇用ビジョン懇談会(座長・樋口美雄慶大商学部長)が最近まとめた「望ましい働き方ビジョン」にも出てくる表現ですが、「正社員として働けないので、やむなく非正規で働く人」のことで、その比率は非正規の22・5%(二〇一〇年)と増加傾向にあります。こうした向上意欲を持つ非正規就業者への雇用拡大策を進めるなど「中間層充実」政策が不可欠です。

◆小役人の発想でなく

 強い者だけが勝つ「小選挙区」型社会の弊害を除去せずして税率アップだけ実現しようというのは、税金徴収に執着する小役人的態度です。それでは厳しい下山を終えて国民こぞって再登山にチャレンジする道は開けません。

 

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