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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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東京あたりでもひと冬に何日か、カーテンを開けたら銀世界という朝がある。〈不意打ちの雪の朝(あした)でありにけり〉中村宏。音もなく降り積もる雪は、手品のような天の早業だ▼誰の知恵なのか、論告で「雪の朝」を持ち出した検察は大胆だった。さいたま地裁で死刑判決が出た連続不審死事件である。ずばりの証拠を欠き、被告も殺害を否認する難件。粗い例え話に背中を押された裁判員もいただろう▼大意はこうだ。「前夜は星空だったのに、朝は一面の雪化粧。雪が降る場面を見ていなくても、夜中に降ったのは明らかです」。間接証拠だけで罪に問えるという主張は、裁判員を鼓舞するかに聞こえた▼3人が死の直前に会ったのは、いずれも木嶋佳苗被告だった。死者からの大金、練炭、睡眠薬。社会常識を頼りに、裁判員が状況証拠のジグソーパズルを組んで浮かんだ「黒い雪景色」。「虚飾に満ちた生活のために殺人を重ねた」との結論である▼男性観や金銭感覚を「反省」し、生き直したいと訴える女性を断罪するには、相当の覚悟と得心が要る。裁判員の一人は、心の重さより事実の大きさが勝(まさ)ったと語った。100日もの任期を、全員で全うした自信もあろう▼裁判員制度の「耐久力」も試された。もっとも、「降る雪」を語る直接証拠が一つでもあったら、市民にこれほどの負担はかけずにすんだ。法廷らしからぬ文学的な例え話も、判決が言う被告の「不合理な弁解」も不要だった。ずさんな初動捜査が悔やまれる。