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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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春らんまんの京都、祇園と桜の組み合わせで浮かぶのは、与謝野晶子の「みだれ髪」の名高い一首だ。〈清水(きよみず)へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢(あ)ふ人みなうつくしき〉。花篝(かがり)に照らされる夜は華やぎ、幸福感に包まれた乙女は匂いたつばかり▼この季節、古都は宿の予約も難しいほど観光客でにぎわう。そんな昼下がり、満開の桜の下の、凍りつくような暗転である。祇園の繁華街で人の列に車が突っ込み、次々にはねた。7人が亡くなるという、痛ましい事故になった▼運転していた男性も死亡した。原因や事情はまだ明確ではないが、ときどき意識を失う持病があったらしい。軽乗用車ながらのこの惨状に、「走る凶器」ぶりを改めて思う。交通戦争と言われた1970年ごろは、年に1万5千人以上が落命していた▼去年は3分の1を下回ったが、それでも4612人もの命が失われた。家族やまわりの悲嘆ははかり知れない。年に約5万人の重傷者にも深刻な障害が残る人は多い。交通戦争は終わってはいない▼車そのものの安全性は高まったが、運転するのは人である。「敵を知り己を知らば百戦危うからず」と孫子の言葉にある。原因が何にせよ、車の怖さを知って安全を保つことができなかったものかどうか、悔やまれる▼〈四条橋おしろい厚き舞姫の額(ぬか)ささやかに打つあられかな〉。晶子の詠んだ橋のすぐ東が悲劇の現場になった。華やぎを吹き飛ばしてカメラや靴が路上に散乱した。突然絶たれた命の無念を、痛切に思う。