一キロ二百五十万円。一匹約四百円。ウナギの稚魚、シラスウナギの値段が高騰している。三年連続の不漁。この“少子化”は種の存続を脅かしかねない。うな丼を安くうまく食べ続けるためには−。
ひつまぶしの本場、名古屋市中央卸売市場の成魚の卸売価格は一キロ六千円台と、昨年の二倍以上になることも。一品千円の値上げを余儀なくされた専門店もある。ピンチは全国で起きている。近ごろはウナギも温室育ちという。年末にウナギを囲いの中の“温水プール”に入れて、土用の丑(うし)の日に出荷量のピークが来るよう“栽培”されている。
シラスウナギの不漁続きに対し、昨年までは越年在庫と輸入で何とかしのいできたが、香港からの輸入も半減、養鰻(ようまん)池が空っぽになりかけて、とうとう街のうなぎ屋さんも悲鳴を上げた。体長数センチのシラスが一匹当たり四百円もしてしまうから、たまらない。廃業を決めた店もある。
ウナギは謎の多い魚である。東大海洋研究所などが産卵場所を特定したのは、まだほんの三年前だ。東京からはるか二千キロ南、マリアナ諸島の西から日本への長い旅路の果てに、川を上って成魚になる。激減の理由も定かでないが、海流異常説が有力だ。
ヤナギの葉のような、ウナギの幼生レプトケファルスは、自力では長旅に出られない。海流に乗って移動する。温暖化などの影響で潮の流れが変わり、幼生たちが日本の河口までたどり着けなくなっている。幼生は大海を漂いながら人知れず死んでいく。このような「死滅回遊」に乱獲が重なって、絶滅の恐れもあるのだという。
「ウナギは養殖」と思われがちだが、シラスを捕って池で大きくするだけだ。完全養殖の技術はあるが、実用化にはほど遠い。うな丼という食べ方自体が、早晩難しくなるのではないかと、流通業者も真顔で心配する。
水産庁は先月末、養殖業者や自治体関係者などを集めて「シラスウナギ対策会議」を開いた。温暖化対策、資源保護のあり方、河川環境の改善、完全養殖技術の改良など、大切な食文化を維持するための課題は山積だ。だが、それだけではウナギの絶滅は防げまい。
だが、うな丼危機は、私たち消費者にも、取り尽くし、使い尽くし、食べ尽くす文化の再考を求めている。
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