予算は成立したが、歳入の四割を占める赤字国債発行のための法案は成立のめどが立たない。成立はまたも首相交代と引き換えか。政治の混乱を避ける知恵は、与野党がともに絞らねばならない。
野田佳彦首相は「ねじれ国会」の厳しい現実を肌で感じているに違いない。年度をまたいで成立した二〇一二年度予算は、二年連続で財源の裏付けが伴わないままでの予算執行となった。
同じくねじれ状況だった昨年、赤字国債を発行する公債発行特例法が成立したのは、菅直人前首相が正式に辞意表明したのと同じ八月二十六日。
特例法成立が菅首相退陣条件の一つだったこともあり、首相が赤字国債発行のために自らの首を差し出した形となった。
国会勢力図から言えば、野党側が法案を「人質」に首相退陣や衆院解散を迫るのは国会戦術としてはあり得る。しかし、国会は国民生活をよくする政策を議論し、決定する場だ。その原点を忘れて政争ばかり見せつけられては、国民はうんざりだ。
野田首相は特例法案をどうやって成立させるつもりなのか。与野党は今年も不毛な争いを続けるのだろうか。衆院議員任期は来年八月まである。解散がなければ来年もまた同じことが繰り返される。
与野党はそろそろ、ねじれ国会の運営の在り方をめぐって接点を見つけ出すべきではないのか。
例えば、予算の衆院議決優先と同様、予算関連法も衆院の議決を尊重するなどの知恵が必要だ。
政治の混乱を避ける責任は与野党双方にあるが、とりわけ政権与党を束ねる首相の役割は大きい。
にもかかわらず、消費税率引き上げに「政治生命を懸ける」と断言した首相自らが混乱の火種になるのは何たる皮肉だろう。
増大する社会保障費を賄うために消費税増税はいずれやむを得ないとしても、政府や国会が身を削る改革をしたり、社会保障の将来像を描いたりと、増税前にやるべきことはたくさんある。
それらを後回しにして増税だけを先行させようとするから国民の反発を買い、民主党や国民新党の中で混乱が広がるのだ。
野党側もただ首相退陣や衆院解散を迫るだけでは、国民の共感は得られない。民主党に政権担当能力がないというのなら、自らが議論を主導し、野田内閣を引っ張るくらいの気概があっていい。
それでこそ国権の最高機関にふさわしい姿ではないのか。
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