HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 49258 Content-Type: text/html ETag: "f1fbc-141d-4bcdd43518b25" Expires: Wed, 04 Apr 2012 23:21:18 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Wed, 04 Apr 2012 23:21:18 GMT Connection: close 4月5日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)




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4月5日付 編集手帳

 弓の名人を志した()(しょう)という男が、まずは目を鍛える。シラミを3年間、にらみつづけた。馬ほどの大きさに見えたとき、男はシラミの心臓を射抜く…。中島敦の奇譚(きたん)『名人伝』である◆中学校の国語の教科書で読み、「シラミが馬の大きさなら、弓を握っている自分の(げん)(こつ)は山ほどの大きさに見えるだろうし、シラミは拳骨の陰に隠れてしまわないかしら?」と、愚にもつかぬ感想を抱いた覚えがある◆あれからン十年、自分の手は本来の寸法のまま、大きく見たい物だけが大きく見える技術が今はあるらしい。東京大学の研究チームが、食べているものを大きく見せかける「メガネ」を開発したという◆お菓子を持った手の大きさはそのままで、映像処理によってお菓子だけを1・5倍に拡大する。紀昌さんもびっくりだろう。大きなお菓子を食べたという満腹感から、食欲が抑えられる効果が実験で確認できたという◆このメガネ、心のなかにも欲しいものだ…と、ふと思う。毎日まき散らしている恥と悔恨の種は本来の大きさのまま、ごくごく小さな折々の幸せだけを胸の画面に大写しにしてくれるメガネを。

2012年4月5日01時52分  読売新聞)

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