土筆(つくし)を見つけられなかったという話を先日の小欄で書いたところ、東京都小平市の読者の方が、土手で採ったかわいらしい土筆を送ってくださった。ご厚意に甘え、料理してみた▼はかまを取りさっとゆがいた後、しばらく水にさらしてアクを取る。ごま油でさっといためてしょうゆとみりんで味付けをした。ほのかな苦味が、春の訪れを感じさせてくれる▼食べた後、はっと気付かされた。春は土筆や山菜、秋には、キノコや果物を採って食べる。そんな当たり前の生活をあきらめなくてはならない人が、どれほどいるのだろうか、と▼福島在住の詩人和合亮一さん(43)の詩集『ふたたびの春に』の「苦難」という詩が思い浮かんだ。<肌がとられていく/剥がれていく/激しい寒気の真冬に/除染されて 樹皮を削られた私たち>▼桃や柿の産地である福島県伊達市で、放射性物質が付着した果樹の皮を剥ぎ取る除染作業に触発された詩だ。先日、和合さんの話を聞く機会があった時、この詩を朗読してくれた。<この痛みを知って下さい/奪われた何かを分かって欲しい>▼震災直後から連日、ツイッターで言葉を紡ぎ出し、大きな反響を呼んだ詩人は、すでに始まっている風化にあらがうために「福島から言葉の橋を架ける」と力強く語った。自ら橋を渡り声を熱くして福島からの言葉を伝える。その思いに応えたい。