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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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文字通りの「季節の便り」と言うべきか、兵庫県丹波市の読者が送ってくださった封筒からツクシが出てきた。日課の散歩の道すがら摘まれたようで、この春初の3本です、と手紙にあった▼春の野には、食卓にのぼる草が多彩に芽を吹く。中でもツクシはなじみが深い。京都の懐石「辻留」の先代だった辻嘉一(かいち)さんが、そのなりを「飄々(ひょうひょう)とした超俗的な姿で、どこか悟りすましたお坊さんを思わせる」と書いていた。走りのものは高値の食材になるそうだ▼ほかにもセリやヨメナ、ワラビなど、春の野山に草を摘む習慣は万葉集にも歌われていて古い。先ごろは宮崎県の王子山遺跡から、1万3千年も前の縄文人がネギを食べていたらしい跡も見つかった▼野生種と見られ、今のノビルやアサツキに近いという。まさか薬味ではなかろうが親近感がわく。火を使ったらしき「炉穴」も多く、色々な植物を調理して食べていたようだ。古代人も芽吹きの春にはせっせと草を摘んだのだろうか▼ふと小林一茶を思い出す。〈おらが世やそこらの草も餅になる〉。草とはヨモギだろう。春を迎えたうれしさが一句に躍る。時は流れて去年、〈いつ摘みし草かと子等(ら)に問われたり蓬(よもぎ)だんごを作りて待てば〉の一首が朝日歌壇に載った▼茨城県の野田珠子さんが詠んだのは、震災後の放射能への不安だった。この春も、「おらが世」とばかりに土を割る草々(くさぐさ)を、無邪気に摘めない土地がある。つくしん坊たちの「喝」が野から山から聞こえてくる。