<ならざか の いし の ほとけ の おとがひ に こさめ ながるる はる は きに けり>会津八一。万葉調を愛した歌人は、石の仏のあごにしたたる雨に、春を見た▼かと思えば、少し前、廃品回収に何か持っていった家人が帰り来て曰(いわ)く、「ああ今年も、そんな季節なんだなぁと思ったわ。受験参考書の類(たぐい)が山のように出されてて」。なるほど。どこに春を見、何に春の到来を感じるかは、人それぞれである▼冬物コートをクリーニングに出す時、という人もいようし、昨日だったプロ野球の開幕こそがそれだ、というファンも多かろう。でも、日本人が「春は来にけり」と感じるものといった時、とどめを刺すのはやはり桜の開花ではあるまいか▼♪酒を飲む人 花ならつぼみ。今日もさけさけ 明日もさけ−とは古い歌謡の一節。早く花見に行きたいのに、桜名所の情報に「つぼみ」とあるのを見れば、「咲け、咲け」と願うのは何も左党に限るまい▼気象庁によれば、本州でも静岡に続き、昨日は名古屋や岐阜などでソメイヨシノの開花が確認された。日本気象協会の開花日予想だと東京は今日。予想担当者こそ「咲け、咲け」の心境だろう。で、外したら「酒、酒」か▼それにしても、まだだ、もうすぐ、遅いの早いのと、これほど人の口の端に上せられる花もない。桜とは、つくづく果報な花である。