HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 48784 Content-Type: text/html ETag: "f18d7-134a-4bc785fd234a9" Expires: Sat, 31 Mar 2012 00:21:48 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Sat, 31 Mar 2012 00:21:48 GMT Connection: close 3月31日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)




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3月31日付 編集手帳

 沢木耕太郎さんに『さらば宝石』という短編がある。〈Eは地味な選手だった。圧倒的に素晴らしい成績をあげているのに人気が少しも湧いてこなかった〉〈Eほどの選手がいつ引退したのかも記憶にないのは奇妙なことだった〉(文春文庫『敗れざる者たち』所収)◆天才打者と呼ばれ、2度の首位打者にも輝いた元プロ野球選手の「E」が、不惑の年齢で現役復帰を夢みて走り込みをしているらしい――耳にした(うわさ)を追跡したノンフィクションである◆最後の1行で、「E」はベールを脱ぐ。〈必死に走りつづけていたE――榎本喜八〉◆榎本さんが75歳で亡くなったという。引退後は指導者にも評論家にもならず、球界とは距離を置いていた。不惑の走り込みが証し立てるように、元祖「安打製造機」にとって身の置きどころは、唯一、バッターボックスの中だけであったのかも知れない。4打数4安打でも、内容に納得がいかなければ物思いに沈む。ベンチで座禅を組む…。求道者然とした逸話を思い出す◆衆に抜きんでた才能も、孤独と苦悩の種子になるのだろうか。生きるとは、むずかしいものである。

2012年3月31日01時30分  読売新聞)

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