民主、自民、公明三党が郵政民営化法改正案を共同提出し、今国会での成立が確実になった。しかし、郵政事業は悪化の一途をたどる。利便性や効率性向上という基本を忘れては収益改善は難しい。
自民党の小泉政権時代に成立した郵政民営化法は、二〇一七年九月までにゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の全株式を売り払い、完全民営化することを定めている。
だが、公明が作成し民、自が受け入れた「郵便局会社と郵便事業会社を統合し現在の五社体制を四社に再編」「政府は持ち株会社・日本郵政株の三分の一超を保有」「日本郵政は子会社の金融二社の全株処分を目指す」を柱とする改正案は、金融二社の全株売却を努力規定に後退させ、実施時期すら示していない。
「国の関与」が舞い戻り、三党そろい踏みで完全民営化の旗を降ろしたと言わざるを得ない。
日本郵政の斎藤次郎社長は「経営の自由度を高めてほしい」と、住宅ローンやがん保険など稼ぎ頭の金融商品拡大に期待を寄せている。しかし、新規業務を認めるかどうかを判断する郵政民営化委員会は、全株を売却せずに間接的に政府出資を続ければ「暗黙の政府保証」が働いて民間との公平性が損なわれると取り合わない。
日本のがん保険は米系生命保険が七割以上のシェアを握っており、TPP(環太平洋連携協定)事前交渉などで米国の反発が避けられない。金融二社の株式売却に躊躇(ちゅうちょ)していては、当面の金融業務が小口預金と少額保険に制約されることを覚悟すべきだろう。
さまよう郵政の現場は士気が上がらず、遅れず、休まず、働かずの「三ずの誓い」が蔓延(まんえん)しているという。遅刻や欠勤をせず、与えられた仕事だけをこなせばいいという官製ビジネスへの回帰だ。
ゆうパックなどの郵便事業は民間の宅配業者に客を奪われ、昨年九月中間決算は営業赤字が七百億円に上った。ゆうちょ銀の残高も減り、かんぽ生命の新規契約数はピーク時の四分の一以下だ。
郵政選挙をはじめ、事あるごとに政局の材料にされてきた郵政事業の効率を高める手だてが、何よりも欠かせない。
改正法案が成立すると郵便、貯金、保険を郵便局で一体的に提供でき、郵便配達員も配達先で金融業務を扱えるようになる。局会社と事業会社の統合で懸念される組織の肥大化を抑え、全社員が利便性向上と向き合わないと自立した郵政事業の存続は危うくなる。
この記事を印刷する