大阪地検の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件で、元特捜部長らに有罪判決が出た。不正をもみ消した大汚点であり、「組織の病弊」とまで裁判官に指摘された。動きだした検察改革をさらに進めてほしい。
検察官は法と証拠に忠実に向き合わねばならない。証拠品であるフロッピーディスクのデータを改ざんした大阪地検の元検事は、その基本を踏み外した。有罪判決を受けた元特捜部長らも改ざんを知りつつ、隠蔽を図った。幹部も基本を逸脱したのだ。
判決が「検察組織の信頼を損ねた責任は重い」となじったのは、当然である。とくに元特捜部長は「ミステークでいく」と部下に述べ、上層部にも不祥事を正確に伝えなかった。組織防衛のためであったとしても、前代未聞の犯罪のもみ消しは許されない。
そもそも厚生労働省の元局長を犯罪者にでっち上げた郵便不正事件は、空中楼閣の出来事だった。事件の構図を勝手に見立てて、強引に供述調書が作成された。証拠品までも改ざんし、その事実を封印するのは、法治国家ではあり得ない。暗黒時代を思わせる。
大阪地裁は「犯行は組織の病弊が生み出したともいえる」とまで述べた。たしかに特捜検察の問題点は、大阪に限らない。
小沢一郎民主党元代表が強制起訴された裁判では、有罪立証の柱だった元秘書の供述調書が証拠採用されなかった。「違法な取り調べがあり信用できない」と裁判官が判断したためだ。
そればかりか、元秘書を取り調べた際の捜査報告書に、架空のやりとりが記載されていたことも判明した。法と証拠に忠実であるべき姿勢とは明らかに乖離(かいり)する。
最高検察庁が陣頭指揮を執って、すでに検察改革は進められている。独自捜査への偏重が無理な捜査につながったとして、特捜部の体制を縮小したり、外部の有識者を参与に入れた監察部門が新設された。職員が上司を評価する取り組みも試験的に実施した。
取り調べの録音・録画の試行も始められ、特捜事件のほぼすべてで実施、そのうち約四割が全面可視化である。現場からは「自白が得られにくい」などの不満があるというが、適正捜査を志す以上、後退はあり得まい。
「検察の理念」と題する職務指針もつくられ、「独善に陥ることなく、謙虚な姿勢を保つべきである」と記された。この精神が徹底され、改善を積み重ねる努力こそ、信頼回復の近道だろう。
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