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2012年3月30日(金)付

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 米国の作家マーク・トウェインは晩年、大切な手紙はいつも2通書いたそうだ。1通には自分の考えを偽りなくしたためたが、それは書いた後で引き出しにしまうのが常だった▼もう1通は当たり障りのない表現で書いて、そちらを投函(とうかん)した。理由をこう説明したそうだ。「私にも養うべき家族はありますからね。本音ばかりは言っていられません」(『世界ウソ読本』文春文庫)。この人らしい処世術だが、似たような詐術もある▼巨額の年金資産を雲散させたAIJ投資顧問事件。損失を正しく記した監査報告は引き出しにしまわれ、水増ししたウソの運用報告が顧客に送られていた。預かり金が底をついていく中、社長は7千万円もの年収で己(おのれ)を養っていたのだから呆(あき)れる▼「だますつもりはなかった」「バクチをした覚えはない」。国会の参考人質疑で語ったこの社長、かなり恥じない人と見た。「つもり」だの「覚え」だのとかわす弁を、虎の子を失った人は何と聞いただろう▼もっとも、顧客だった年金基金の実態もお寒い。厚労省が全国で調べると、旧社会保険庁などの天下りの受け皿になっていて、資産の運用担当者の9割は経験のない「素人」とわかった。これでは危険をかぎ分ける鼻は詰まりがちだ▼国のにらみも利いていなかった。年金はいわば、老いて暖まるための暖炉だろう。そのために働けるうちにせっせとレンガを積んでいる。ただでさえ制度が揺らぐ中、悪いやつらに足蹴にされては炉の火は燃えない。

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