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2012年3月25日(日)付

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 昔話になるが、自民党内の権力闘争が政治を活気づけた時代がある。語り草は40年前の総裁選、佐藤栄作政権の後継を巡る田中角栄と福田赳夫の角福戦争だろう。制したのは54歳の田中だった▼勝者がテレビに映るたび、娘に「お父さんが出てるわよ」と知らせる女性がいた。金庫番の田中秘書、佐藤昭子さんだ。呼ばれたのは、田中との間に生まれた中学生である▼その佐藤あつ子さん(54)が、講談社から『昭(あき) 田中角栄と生きた女』を出した。「決断と実行」の政治家と、資金を任された「越山会の女王」。新潟から出て、固い信頼で結ばれた男女の絶頂と転落を、子どもの目で描いた▼私たちが知る、汗だくで演説する角さんではない。愛する人の家に通い、娘を抱きしめる男がそこにいる。その人生のせわしさを思う。官僚や秘書団を操り、無数の陳情と就職をさばき、政争を生き抜き、私生活にも時間を割く。異常なほどの「処理能力」である▼だが、大車輪のしわ寄せは公私に及んだ。金権批判、ロッキード事件、脳梗塞(こうそく)。多感な年頃に自分の境遇を知った著者も、やがて薬と酒と自傷に走る。「大好きなオヤジの娘であることが、法を侵さずに生きる最後の砦(とりで)でした」▼蔵相時代、親子3人が家ですき焼きを食べる描写がある。せっかちな田中は大量の砂糖としょうゆを鉄鍋に投入し、娘をげんなりさせた。著者に同情しつつ、何とも言えぬ懐かしさが込み上げる。決断も実行もしない「薄味」の政治に飽きたせいだろう。