HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 48707 Content-Type: text/html ETag: "f3036-1313-4bbebdf0da686" Expires: Fri, 23 Mar 2012 23:21:16 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Fri, 23 Mar 2012 23:21:16 GMT Connection: close 3月24日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)




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3月24日付 編集手帳

 【life】(人生)には【if】(もしも…)が隠れている。もしもその人が、あとしばしの寿命を授かっていたら…と考えつつ、記事を読んだ方もあったろう◆「急死しなければノーベル文学賞を受けていたでしょう」。賞の選考にあたるスウェーデン・アカデミーのノーベル委員会、ペール・ベストベリー委員長が安部公房さんに触れて、本紙のインタビューにそう語った。「非常に、非常に近かった」と◆安部さんは1993年に68歳で急逝した。その翌年、川端康成につづく日本人2人目のノーベル文学賞を大江健三郎さんが受けている◆砂丘地帯の村へ昆虫採集にやって来た男が、穴底の家に閉じこめられる。代表作『砂の女』である。山形県酒田市の砂丘に想を得て生まれた作品という。書き終えた安部さんが「これで酒田の砂丘は、その役割を終えた」と語った逸話が残っている◆実在の土地でさえ、わが筆で表現されるためにこの世に存在すると信じるほど、作品に、作品のみに魂をこめた人である。賞をめぐる下界の【if】談議を、ご本人は天上で、退屈な顔をして聞いているような気もする。

2012年3月24日01時52分  読売新聞)

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