AIJ投資顧問の年金資産消失問題で、証券取引等監視委員会が強制調査に入った。虚偽の運用益をうたって、約一千億円の大穴をあけた。他の年金運用会社にも問題がないか総点検を急ぐべきだ。
「自ら資産評価を改ざんしていた」とAIJ投資顧問の社長は監視委の検査に認めたという。運用に失敗しながら、「高利回りで運用益が出ている」と、虚偽の報告書を顧客に示し、契約を結んでいた。金融商品取引法違反の疑いが濃厚で、極めて悪質だ。刑事告発も当然、視野に入ってこよう。
監視委の調査によれば、年金基金から委託された約千四百六十億円のうち、運用損は約千九十億円に上る。驚くべき数字である。顧客は厚生年金基金や企業年金など計百六を数える。基金の存立そのものが脅かされよう。加入者と受給者を合わせ、八十万人超もが被害を受けるともいう。
老後の安心どころか、老後の不安を招く事態だ。なぜこんなでたらめがまかり通るのか。AIJは運用資産のほとんどを海外の租税回避地のファンドに集中投資していた。これが運用実態をつかみにくくした可能性がある。
監査の目はどうなっていたのか。監視委は同社の投資手法の分析を進め、年金資産の消失を招いた真相を早く解明してほしい。
何よりも、そのほかの年金運用会社に問題はないのか、不安が募る。正確な情報開示をしなければ、顧客は解約の機会を失うし、順調な運用実績を安易に信じると新たな被害を招きかねない。金融庁は投資顧問業者二百六十五社の調査に乗り出した。適正な資産管理が行われているかどうか、徹底的に洗い出すべきである。
金融自由化で信託銀行や生命保険会社に限られていた企業年金の運用が多様化した。二〇〇七年には投資顧問が認可制から、登録制に変わった。当局の監視が行き届きにくかった背景もある。
そもそも年金運用で大事なのは、リスクの回避、低減だろう。だから分散投資の義務を明示した厚生労働省のガイドラインが設けられていた。
AIJの顧客には重点指導が必要とされる基金が十二あり、同社への委託割合が30%以上の基金も八あったとされる。
厚労省は「運用内容の精査は十分ではなかった」と釈明しているが、政府の責任も問われる。老後を脅かさないよう、再発防止策を練り直さねばならない。
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