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天声人語

天声人語のバックナンバー

2012年3月23日(金)付

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 映画やテレビドラマではおなじみのシーンだろう。容疑者を捕らえた刑事が言う。「君には黙秘する権利がある……」。捜査側に義務づけられた権利通告の大事なルールである▼企業向け料金の値上げをめぐる東京電力のやり方に、そんな場面が思わず浮かんだ。現行の契約期間が切れるまでは顧客の同意が必要なのに、それを伏せて4月からの値上げを通告していた。拒む権利は当然通知すべきだろうに、顧客もなめられたものだ▼「だますつもりはなかった」と東電は言う。だが、「だまされかかった企業」はごまんとある。表面化しなければ、多くは言われるままだったに違いない。故意かどうかはおいて、信義にもとること甚だしい▼去年の暮れ、値上げの会見で西沢俊夫社長は「値上げは事業者の義務であり、権利でもある」と言って大方をあきれさせた。そして今回の不誠実である。必要なだけ料金に乗せてきた「お手盛り育ち」は、どうにもお里が隠せない▼値上げはとりわけ中小企業を痛めつける。かつて小欄で、父親が37年働いた町工場を初めて訪ねた娘さんの文章を、取り上げたことがある。「小さなネジをたくさんたくさん作り、私の頭のてっぺんから爪の先まで育ててくれた」の一節にほろりとなった▼送電線の先は様々ななりわいにつながっている。それを忘れるべからず。管内を領地と勘違いするべからず。隠すべからず。うそ言うべからず。さもなければ地に落ちた東電の信用は、地中に消えるしかない。

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