HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 49459 Content-Type: text/html ETag: "2f50a8-150c-4bbc34428d444" Expires: Thu, 22 Mar 2012 03:22:19 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Thu, 22 Mar 2012 03:22:19 GMT Connection: close 3月22日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)




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3月22日付 編集手帳

 セミの抜け殻を「空蝉(うつせみ)」という。潮が引いたあとで岩のくぼみなどに残った海水を「忘れ(じお)」という。さして値打ちのないものにさえ、日本人は美しい名前を授けてきた◆抜け殻や()まり水とは比べようもなく大切な名前を売りに出さねばならないとは、何とつらい時代だろう。財政破綻の瀬戸際に立つ大阪府泉佐野市が市の名前を企業に売却する意向という。「大阪府××市」の空欄には企業名や商品名が入るらしい◆背に腹は代えられぬ、という苦渋の選択としても、市民はどんな気持ちでこのニュースを聞いたのだろう◆歌人の小池光さんに、自治体名にまつわる一首がある。〈一字市(いちじし)(わらび)の春の駅頭にふはふはとせる人びとのむれ〉(歌集『滴滴(てきてき)集』より)。季語「()(わらび)」からの連想もあってか、蕨市(埼玉県)には春の女神が見守ってでもいるかのような印象がある。自治体の名前にも地霊というものが宿っているのだろうか◆不幸にして泉佐野市が、企業名や商品名を空欄に(いただ)く以外に財政破綻を避ける手だてがないとすれば、せめて“地霊”に愛想を尽かされない名前になることを祈るばかりである。

2012年3月22日01時26分  読売新聞)

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