パートなど短時間で働く人にも厚生年金や健康保険に加入してもらう改革案が後退した。社会保障と税の一体改革の柱だが、反対する雇用側に配慮した。これでは現役世代支援とはいえない。
非正規で働く人のうち、パート従業員など短時間労働の人は厚生年金や健康保険に入れない。
保険料が全額自己負担なのに給付が不利な国民年金や国民健康保険(国保)に加入するしかない。
厚生年金に加入できれば、基礎年金に加え厚生年金がもらえる。健康保険も国保より有利な給付で医療が受けられる。
働く人にはシングルマザーや単身の若者もいる。現役世代は社会保障制度の担い手なのに、雇用が不安定で低収入の非正規で働かざるを得ない人が少なくない。厚生年金と健康保険の加入拡大は、現役世代に必要な支援策だ。
厚生年金などに加入する夫を持つ専業主婦(第3号被保険者)は、保険料負担なしで基礎年金をもらえる。3号でいるために、就労時間を制限する人もいる。
専業主婦は加入拡大で保険料を新たに負担することになるが、給付も増える。収入を得るのなら自ら加入してもらうことも皆年金の趣旨からは必要だろう。
一体改革案は、対象を「就労を週三十時間以上」から「二十時間以上」に広げ、最終的に三百七十万人への拡大を目指している。
労使折半である保険料の雇用側負担は最終的に年間約五千四百億円となる。パートを多く抱える流通・小売業界から反発が出ると、民主党内で慎重論が広まった。
百万人まで拡大する案も検討されたが雇用側の説得はできなかった。結局、政府案は四十五万人を対象とする改善案に後退した。目標の八分の一の規模だ。
政府は「全世代型」の社会保障の充実をうたうが、現役世代を支えるには不十分である。
雇用側の反発は予想された。改革を進めるには業界の説得が最大の政治課題だったことは政府・与党も分かっていたはずだ。
今回の拡大案で、雇用側の保険料の負担増は年間約八百億円に抑えた。だが、安い人件費で働かせるばかりでいいのか。雇用側にももっと働く人を守る責任がある。
政府は二〇一六年に加入拡大を実施後、三年以内にさらに拡大する方針だが、雇用側の説得が必要になる。今回はそれを先送りしたにすぎない。政治の責任から逃げるばかりでは改革はできない。
この記事を印刷する