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この一首には、春先の余寒より初冬の朝あたりがふさわしく思われる。〈「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ〉。俵万智さんの歌だ。鏡に向かって話しかけるわけもないから、このあたたかさを感じるには「2人」の存在が必要になる▼屋外の会話か、一つ屋根の下かは想像次第だが、筆者の印象を言えば後者である。だから、東京都の1世帯あたりの平均人数が2人を割ったと聞いてふと胸に浮かんだ。いまや家でものを言う相手のいない人が都民の「平均像」ということになる▼1.99人。調査を始めた1957年は4.09人だったが、初めて2人を下回った。とりわけ単身のお年寄りは急上昇のカーブを描く。一日もの言わず――そんな暮らしが増えているのだろうか▼もっとも昨今は、家の外でも「無言」は目立つ。フランスで暮らした作家の池澤夏樹さんが帰国後、本紙に寄せたコラムで「日本の買い物には会話がない」と書いていた。まるでロボットの国のようだ、と▼声欄にもその手の話が載る。都心の駅員さんは「無言で地図を見せて道を聞き、礼も言わず去る人が多い」と嘆く。スーパーの買い物籠に入れる「レジ袋不要」のカードについて、口で言えばいいのに、と書く人もいた▼ツイッターなどネットを飛び交う饒舌(じょうぜつ)と裏腹に、日常の光景はどうも寒々しい。沈黙は金(きん)と言い、寡黙にも重みがある。だが無言は殺伐としていて、冷ややかだ。身近な、さりげない会話を取り戻したい。