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評論家の吉本隆明さんは16年前、伊豆の海で死にかけた。全共闘世代は祈る思いで「教祖」の容体を見守ったという。本紙記者は「オーバーにいえば、戦後日本思想界の大事件」と書いた。ならば今回は、掛け値なしの一大事となろうか▼時に戦後最大と称された思想家が、87歳で亡くなった。『言語にとって美とはなにか』『共同幻想論』。膨大な著作は、まず書名で読者の覚悟を試す。ご自身はしかし、下町の気っ風で大衆に寄り添う人情家だった▼思想の左右を超えて「きれいごとの正義」や「党派や組織の論理」にかみつき、あらゆる権威に市井の目で挑んだ。晩年の対談で自嘲している。「あの野郎、いつまでも人の悪口を平気で書いてやがる、なあんて思われているだろうし、ちっとも大家(たいか)にならない」▼若い頃、太宰治の戯曲を演じるにあたり、本人に挨拶(あいさつ)に行った。屋台で意気投合し、酔った太宰は「断りなんていらない。そんなもの勝手にやっちゃえばいいんだ」と。大家ぶらず、格式張らぬ生き方。これを我がものとし、誰にも気さくに接した▼食いしん坊で好物はレバカツ、後に漫画家と作家になる娘たちに弁当を作る一面もあった。次女の作家よしもとばななさんは、仕事先の香港で「最高のお父さんでした」と悼んだ▼さてあちらでは、名だたる論客が手ぐすね引いているだろう。花田清輝(きよてる)、丸山真男、埴谷雄高(はにや・ゆたか)、谷沢(たにざわ)永一。続きをやるつもりなら、時間と相手に限りはない。天上の論壇がにわかに活気づく。