今春闘のヤマ場となる自動車や電機など大手企業の労使交渉で経営側が一斉に回答した。一部では定期昇給(定昇)を事実上凍結するなど低調な内容。景気に弾みがつかない大局観を欠いた回答だ。
輸出企業の元気のなさをそのまま反映した回答だった。表面上は組合側が要求する定昇を維持し、一時金(ボーナス)も満額が多かった。だが、賃金全体を底上げするベースアップ(ベア)要求を見送った春闘は、やはり盛り上がりを欠いた。
定昇は業績悪化に苦しむシャープなどを除き各社とも維持した。連合によると自動車はトヨタや日産、ホンダなど十一社の単純平均で約五千九百円、電機ではパナソニックや日立製作所、東芝、三菱電機など十四社の組合平均で五千五百円を守った形だ。
また一時金をよく見ると自動車や電機各社間でばらつきが出た。トヨタやホンダなど満額を獲得したところが目立ったが、もともと要求水準が昨年の妥結額以下だったから金額は下がった。
今春闘で経営側は強硬だった。この一年、円高や東日本大震災での被災、電力不足、タイ洪水被害など困難な問題への対処に追われた。そこで「雇用を守ることが最大の社会貢献」と主張して、連合が掲げた「給与総額の1%アップ」の要求をねじ伏せた。
だがこうした経営側の姿勢は、日本経済や社会が抱える問題の解決を遅らせかねない。
十四日の円相場は一ドル=八三円台まで戻り、日経平均株価も一万円台を回復した。日銀の超金融緩和策の継続と政府の震災復興予算の執行で、景気全体が好転する方向にある。これに“賃上げ”が加わればデフレ脱却と景気回復に勢いがついたはずだ。
また雇用を本当に守ってきたのかも問われる。四年前のリーマン・ショックでは大量の派遣切りが社会問題になった。大学生らの新卒者採用も依然として抑制気味。雇用や所得の格差是正には経営側に真剣な努力がいる。
自動車、電機など大手組合は、ベアには関心が薄い。UIゼンセン同盟などは「賃上げを要求していない組合が、なぜ春闘のヤマ場を作るのか」と不満を漏らす。中堅・中小の六十四組合は集中回答前日に賃上げ額を発表した。
労使間では今後、賃金制度や非正規雇用者の処遇改善など基本問題を深く議論すべきである。
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