HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 15 Mar 2012 03:21:49 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞: 右手にたばこを持ち、あぐらをかくような無造作な姿勢で、バ…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

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 右手にたばこを持ち、あぐらをかくような無造作な姿勢で、バーの椅子に座る太宰治の有名な写真は敗戦翌年の暮れ、東京・銀座の「ルパン」で撮られた。写真家の林忠彦さんが織田作之助を撮影していると、カウンターの隅から酔った男が「おい。俺も撮れよ」と大声でわめいた。それが太宰だった▼東京・渋谷のたばこと塩の博物館で開催中の写真展「紫煙と文士たち」には、太宰をはじめ、坂口安吾、川端康成、志賀直哉、三島由紀夫ら文士たちの魅力的なポートレートが並び、飽きることがなかった▼人物の写真や戦後の世相を撮り続けた林さんが肝臓がんの宣告を受けたのは六十代半ばの時だった。命と競争し、引き換えにしてでも残したかった作品があった。急速に失われていく江戸の面影を刻む写真集『東海道』である▼脳内出血で半身不随になっても車椅子で撮影を続けた。がん宣告から五年後、百五点のカラー写真集を発表した林さんは、その年の十二月に亡くなった。七十二歳だった▼能に「入舞(いりまい)」という言葉がある。老境に入った能役者が、さらに高い芸の境地に到達することだ。経験に安住せず、最後に創造的な仕事をする意義の深さは能の世界にとどまらない▼林さんの主治医だった石飛幸三さんは『東海道』はまさに入舞だったと振り返る。老いとは何か。深く考えさせる表現者の最晩年だった。

 

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