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湖、沼、池の別は曖昧(あいまい)だが、戦争報道に登場するのは圧倒的に沼である。イメージは万国共通とみえて、手元の英和辞典で「quagmire(カグマイア=泥沼)」を引くと「あがきの取れない苦境」とあった。米軍がもがくアフガニスタンの沼が、ますます深い▼南部の村で米兵が銃を乱射、女性や子どもら16人を殺害した。未明に一人基地を抜け出し、民家3軒に押し入ったという兵士。イラクに3度赴き、アフガンには来たばかりだった。この凶行、戦場の狂気では終わらない▼反米感情に乗じ、反政府勢力タリバーンが攻勢に出ている。住民の憎悪に囲まれ、敵が見えない疑心暗鬼が9万米兵の心をむしばむ。ベトナムの幻影を前に、米政府は「名誉ある撤退」を急ぎたかろう▼戦争は、始めるより終わらせるのが難しい。殺し合いが次の殺し合いに理由を与え、恨みの連鎖が交渉を遠ざける。中東から南西アジアへと、そんな泥沼の芽が連なる▼シリアでは、政府軍と反体制派が交戦した街で、女性と子ども計47人の遺体が見つかった。双方が相手の仕業と非難している。パレスチナと反目するイスラエルは、核開発をやめないイランに「自衛の攻撃」を辞さぬ構えだ▼〈宇宙より眺めし地球青かりき死の色の濃きアフガンの土〉峯寿巳雄(すみお)。空しくも10年前の歌である。ひとたび口を開けた泥沼は、のむ者を選ばない。女性や老人、国の将来を担う子どもまで。泣き叫び、抱き合ったまま沼に沈む母子を思う時、あらゆる大義は色あせる。