いつまで同じ悲劇が繰り返されるのか。また目の不自由な人がホームから落ちて亡くなった。点字ブロックだけでは視覚障害者を守りきれない。安全柵づくりとともに周りの声掛けを進めよう。
埼玉県川越市の東武東上線川越駅で先週、視野が極めて狭いマッサージ指圧師の橋本彰雄さん(62)がホームから転落し、七秒後に急行電車にはねられた。
ホームの端と点字ブロックの間を歩いていて足を踏み外したらしい。その様子が監視カメラに写っていたという。
事故発生と同時刻の午後一時前、現場に立った。ホーム最後部の近くだ。急行を待つ人がどんどん増え、点字ブロックの近辺に大勢が立ちふさがった。
利便性や安全性を考え、普段から乗り降りする位置を決めている視覚障害者は多い。電車の到着を告げるアナウンスが流れ、橋本さんはいつもの乗車位置へと急いだのではないか。他人にぶつからずに歩くには、ホームの端でなくてはならなかったに違いない。
しかし、白杖(はくじょう)をついた目の不自由な人が危ない場所を歩いているのに、周りの人は誰も声を掛けなかったのか。注意を促したり、手を引いたりすれば落ちずに済んだかもしれない。
居合わせたみんなが無関心だったとは思えない。相手の尊厳を傷つけないかとためらう人も少なくない。だが、ヒヤリとするような場面では迷わず声を掛けたい。
点字ブロックそのものも古いタイプだった。ホームの内側と外側を示す「内方線」と呼ばれるライン状の突起がついていない。しかも周辺の床面と同じ高さに埋め込まれ、靴底では点字ブロックと気づきにくい。改善が急がれる。
点字ブロックだけでは万全ではない。昨年七月に全盲の男性が落ちて亡くなった東京都町田市の東急田園都市線つくし野駅のホームには、既に最新の「内方線」のついたタイプが設置してあった。
やはり安全対策にはホームドアが欠かせない。視覚障害者の相次ぐ転落事故を受けて国土交通省は、一日に十万人以上が使う大規模駅に速やかに設けるとする目安を示している。
東武鉄道によれば、川越駅をはじめ全路線で九駅が対象だが、いずれもホームドアの設置計画はないという。国や自治体は資金繰りや技術開発を後押しすべきだ。
声掛けも点字ブロックも鉄道業界にとっては脇役でしかない。それに頼り切ってはならない。
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