印象的な写真だ。チェルノブイリ原発に近い高層住宅の最上階で、床に根を張った白樺(しらかば)が天井まで伸びている。鳥が種を運んだらしい。放射能が奪った歳月の長さが見える▼今月上旬までチェルノブイリやベラルーシを訪れた福島県飯舘村の佐藤健太さん(30)が撮影した。原発から百八十キロ離れながら最も汚染されたベラルーシのゴメリ州は、村の大半が福島第一原発の三十キロ圏外なのに全村避難した故郷と重なった▼内部被ばくの徹底測定、食品のきめ細かい放射線の測定など、福島の未来に有意義な訪問だった。除染にかかわった人が将来がんになった時、政府が補償する制度は日本も導入してほしいと思った▼飯舘では、雪解けとともにフキノトウが顔を出す。タラノメなどの山菜やキノコ、夏にはイワナやヤマメも。季節の恵みをおすそ分けする楽しみも奪われてしまった▼震災から一年を迎えた十一日、約一万人が国会議事堂を「人間の鎖」で囲むなど、七万人以上が全国で脱原発を訴えた。核燃料サイクル施設が集中する青森県でも、かつてない千七百人以上が集会に参加した▼<をとこより脱原発をはつきりと言ふをんなたち、がんばつてほしい>小野長辰。本紙歌壇で二月の月間賞の歌だ。「子どもたちを守りたい。福島の声を絶やしたくない」。佐藤さんの願いをつなぐのは、腹の据わった女性なのだろう。