HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19437 Content-Type: text/html ETag: "12a1017-4682-e0cd8bc0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 12 Mar 2012 00:21:15 GMT Date: Mon, 12 Mar 2012 00:21:10 GMT Connection: close 朝日新聞デジタル:天声人語
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天声人語

2012年3月12日(月)付

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 福島市生まれの詩人、長田(おさだ)弘さんの詩集『詩の樹の下で』から一節をお借りする。〈あらゆるものには距離があるのだ。あらゆるものは距離を生きているのだ。そして、あらゆるものとのあいだの距離を測りながら、人間はいつも考えているのだ。幸福というのは何だろうと〉▼〈幸福を定義してきたものは、いつのときでも距離だった〉と詩は続き、様々な距離を挙げる。小さな花々との距離。川や丘、海との距離。生まれた土地との距離。亡き人との距離……まだまだある▼長田さんの感性に触発されて、震災で壊れたものがあらためて浮かび上がる。生命財産を奪い去った災厄は「幸福な距離」も破壊していった。きのうの本紙アンケートによれば、家族が離ればなれで暮らす人が3割を超えている▼故郷や住み慣れた土地を離れた人も多い。3世代で同居していた福島県の88歳は、息子夫婦や孫と離れて仮設住宅で妻と暮らす。川も丘も、先祖のお墓も、なじんだ距離にあったろう。「住民はばらばらになり、もう帰れない」。悲嘆の声に胸が痛む▼原発の事故は、人の心の距離を隔てもした。避難して他所(よそ)へ移るのか、とどまるのか。放射能への考えの違いで夫婦や家族にもいさかいはあるという。「見えない被害」となって人をさいなんでいる▼時計の針は戻せない。だが復興とは、あらゆるものとの距離を、人がよりよく取り戻していくことだと思いたい。きのうの追悼の祈り。そしてきょうからはまた、共に歩みながら。

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