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震災発生から1年をへて、なお34万人が仮設住宅などでの暮らしを余儀なくされている。
野田首相はきのうの追悼式で「被災地の苦難の日々に寄り添いながら、復興を通じた日本の再生という歴史的な使命を果たしていく」と誓った。
だが、この1年、私たちが選んだ政治家の行動は、あまりにふがいなかった。
未経験の複合災害に、完璧な対応は難しかったろう。とはいえ、発生直後の首相官邸の混乱ぶりは、政府の危機対応のお粗末さを露呈していた。
民主党の過度の官僚排除で、政と官の信頼関係が崩れていたことも事態をこじれさせた。
その後も政府の動きは鈍かった。本格復興の原資になる復興交付金を計上した第3次補正予算は昨年11月に、やっと成立した。その交付金の第1次配分を決めたのは今月の2日だ。
■非常時の対応できず
片山善博前総務相は、この遅れを悔やむ。
知事時代の鳥取県西部地震の経験から、政府がすぐに予算を積んで、自治体が復興計画をつくることが被災者の安心につながると信じていた。
5月ごろから、復興債を出して本格補正予算を組むことを主張していた。だが、当時の野田財務相らは「償還財源を明確にするのが先だ」と拒んだ。
片山氏は「戦争だったらどうするのか。増税するまで待てと相手に言うのか」と食い下がったが、菅首相も黙って目をつむっているだけだった。
特別会計の取り崩しなどを求めた民主党議員もいた。
だが「増税を先送りしたら、政治家は絶対に食い逃げする」という経験則のある財務省側との溝は埋まらなかった。
非常時にも政治を信用できない官僚と、緊急対応に踏み切れない政治家たち。これが悲しい日本政治の現状といえる。
結局、被災自治体の多くは復興計画づくりを延ばさざるをえなかった。
今月の第1次配分で、仙台市の一部の宅地復旧に予算がついた。だが、この間の梅雨や台風の大雨で、崩落はさらに深刻化した。予算の遅れの実害だ。
■変わらぬ国会運営
国会はどうだったか。
賠償金仮払い法、二重ローン対策法。震災対応で、いくつもの議員立法が与野党の協調で成立した。初めて民間人を委員に据えた原発事故調査委員会も、国会に設けた。
だが、多くの国民が記憶に刻んだのは、6月の菅内閣不信任決議案の騒動だろう。
被災地の自民党衆院議員は、地元と永田町の落差にがくぜんとした。「視察に来て『たいへんだ、たいへんだ』と言った同僚議員の言葉は何だったのか」
もしも、国会が岩手や宮城、福島にあったなら、被災者の前で同じことができたのか。
その後も平常時のペースで審議を続けていることにも驚く。なぜ、夜間や休日にも委員会を開いて即断即決しないのか。
平野復興相は、いまも現場訪問はほとんど週末だ。平日は国会審議に縛られるからだ。閣僚の委員会出席を重んじる旧態依然の国会運営を象徴している。
今こそ、危機に対応できる政治、課題を解決する政治に生まれ変わらなければならない。
まずは、政官の協力関係を立て直そう。その前提として、官僚が省益の壁を超えて仕事をするための公務員制度の抜本改革も急がねばならない。
■立法府の足元固めよ
政治主導を実現するには、国会議員の政策機能の強化が欠かせない。その第一歩として、政党は霞が関にひけをとらないシンクタンクを持つことだ。その知恵、アイデアで閣僚や政務三役らを支えるのだ。
原発事故後に、あわてて内閣官房参与を任命する泥縄式ではだめだ。欧州諸国のように、科学的な専門知識を評価し、議員に助言する国会専属の第三者機関も設けよう。
次は国会の流儀の改革だ。
「衆参ねじれ」で、野党が参院での法案への拒否権を持つに等しい状況下でも結論を出せる仕組みがいる。両院の議決が異なった時の両院協議会の運用の見直しなどは、すぐにできる。
各委員会では、法案の問題点を議員同士で討論し、参考人の意見も踏まえて柔軟に修正する慣習を確立しよう。そんな文字通りの立法府になれば、議員を見る国民の目も変わる。
こんな足元の改革をせずに、首相公選制や一院制など実現性も効果も怪しい方策を軽々しく持ち出す議員がいるから、ますます政治が信頼されない。
がれきの広域処理が進まないことについて、首相はきのう「日本人の国民性が再び試されている」と語った。
試されているのは、政治そのものだ。ここで政治が信頼を回復しなければ、真の復興は実現できない。