HTTP/1.1 200 OK Date: Sat, 10 Mar 2012 23:21:17 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞: わが子の亡骸(なきがら)を抱いてさまよう母親が釈迦(しゃ…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

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 わが子の亡骸(なきがら)を抱いてさまよう母親が釈迦(しゃか)に取りすがった。<この子を救う薬をください><芥子(けし)の種を集めなさい。ただし、死人を出したことのない家からもらってくるのだ>▼どこを訪ねても死者を送り出した家ばかり。愛する人を失ったのは自分だけではない、と母親は悟る。以前、沖縄戦での住民の犠牲と重ね、この仏教説話を紹介したことがある▼この一年間、東北の津々浦々を歩くたび、この説話が頭をよぎった。どこで聞いても、家族や親類を亡くした人、家を流された人たちばかりだった▼圧倒的な自然の力の前で、人間のちっぽけさを思い知らされたあの日から、ちょうど一年を迎えた。消息を求める張り紙の赤ん坊の写真、見つからない子どもを土砂の中に捜す母親、水中から発見されたばかりの遺体…。現地で見た光景がまざまざとよみがえる▼「頑張ろう」「復興だ」と安全地帯から言われ続けた人たちは死を心から悼むことができたのだろうか。最悪の事故を起こした福島第一原発周辺の被災者は、遺体をがれきの中に放置して避難を余儀なくされた。喪失感を抱くことさえ許されない絶望の深さを想像する▼震災から一年と言っても被災地はまだ喪の途上である。その中でも、悲しみを引き受け、苦悩しながら、一歩でも前に進もうという人たちがいる。その姿に私たちは逆に励まされている。

 

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