企業年金運用会社のAIJ投資顧問が年金資産を消失させた事件の背後には、旧社会保険庁などの天下りOBがいた。不祥事続きで解体された組織のはずだが、しぶとく続く悪弊にあきれる。
全国の厚生年金基金に二〇〇九年五月時点で、六百四十六人の旧社会保険庁(現・日本年金機構)などの国家公務員OBが天下りしていた。OBを抱えた基金は三百九十九、全体の六割強になる。
歴代の社保庁長官の退職金は平均約六千二百万円だったという。一般職員でも多額の退職金を得て基金に移る。天下り先でも自身は共済年金をもらえる。そんな人材が基金の運営を担っていた。
AIJの顧客の大半は、中小企業でつくる基金だった。加入者から預かった保険料を運用できる人材に乏しい基金が多い。OBも運用の専門家ではない。
OBの一人は、コンサルタントとして基金にAIJを紹介していた。社保庁のOBから紹介されれば、運用力に不安のある基金は契約を結ぶのではないか。
投資のプロであるべき基金の職員の多くが資産運用の経験がなかった点は問題だろう。
だが、AIJの顧客獲得にOB人脈が一役買い、被害を広げたと見られても仕方がない。
厚生労働省は天下りの実態を調べることを決めたが、徹底した実態把握を早急に実施すべきだ。
社保庁職員の天下りは常態化していたといわれる。公益法人や取引企業はもちろん、基金も天下りの受け皿になっていたことが分かった。民主党政権は今後の人材確保に公募を求めていたが、徹底されていなかったのではないか。
一方、五年前に基金など企業年金制度の検証をした厚労省の研究会で、運用経験のある人材の配置を義務付けるべきだと指摘されていた。厚労省は問題を放置してきたと言わざるを得ない。
社保庁は年金の支給漏れや記録問題など続く不祥事で〇九年末に廃止され、民間の日本年金機構になった。だが、OBの影響力が残っていては年金制度への信頼は回復しない。
投資顧問への監視も強める必要がある。年金資産が消失した基金は、積み立て不足が悪化すれば穴埋めの責任を負う母体企業が倒産しかねない。保険料の引き上げ、受給者の年金減額などの対策も講じ、損失を食い止めるべきだ。
政府は実態調査と合わせ事件の再発防止に努める責任がある。
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