二〇一二年度予算案が衆院を通過した。国会の焦点は社会保障と税の一体改革に移るが、社会保障の将来像はいまだに見えない。消費税率引き上げや衆院解散の前に議論すべきことが山積している。
予算案は過去十年で最も遅い通過となった。年度内の成立は厳しく、政府は十四年ぶりの暫定予算編成の検討を始めるという。
財源の半分以上を占める赤字国債を発行するための公債発行特例法案は、野党が多数を占める参院で可決のめどが立っていない。予算案と切り離され、八日の衆院採決は見送られた。
ねじれ国会では公債特例法案は首相進退との取引材料となっている。昨年も成立は菅直人前首相の退陣表明後の八月だった。財源確保に不可欠な法案が、今年は政争の具とならないよう求めたい。
国会にとって予算議決は重要な仕事の一つだが、国民の期待に応える審議だったとは言えない。
お年寄りから若者まで、社会保障制度が将来どうなるのかは、大きな関心事だ。現行制度の不備を直し、将来にわたり持続可能で、世代間の不公平感が少ない制度にするにはどうすればいいのか。
その制度設計があって初めて、消費税増税を含む税負担がどの程度必要か、政府や国会の無駄をどこまで削るのか、という議論が始められるはずだ。ところが、実際には順番が逆になっている。
野田内閣は一体改革大綱で社会保障の全体像を示さず、一体としていたはずの厚生、共済両年金一元化法案を消費税増税法案から切り離して後から提出するという。
これでは消費税増税だけを食い逃げしようとしていると批判されても仕方があるまい。
国民生活を大きく左右する社会保障をめぐる論議は、党首同士の論戦にふさわしいテーマだ。ところが首相と谷垣禎一自民党総裁との先の党首討論は、社会保障論議が抜け落ち、消費税増税の必要性を確認する儀式と化した。
その四日前には極秘会談で消費税増税法案成立への協力と引き換えに衆院解散を約束する「話し合い解散」の可能性も話し合われたという。
政治の重要局面で、二大政党の党首が胸襟を開いて話すことは否定しないが、会談自体を否定せざるを得ない「密室談合」で重要方針が決まるのは容認し難い。
密室でなく党首討論を頻繁に開き、国の未来を堂々と語り合ったらどうか。それが既成政党が信頼を取り戻す唯一の道である。
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